七尾市中島町、ヨットや漁船が停泊する穏やかな七尾湾に面した入江に、石坂智子さんが 2022 年から運営を始めた「ゲストハウスえんね」はあります。
「宿泊業を立ち上げるのが一番の目的ではなくて。訪れる人がここに滞在する中で、中島町の魅力を感じることができる、その日、その時、その季節に沿った日常の一部として里山里海の暮らしを味わってもらうことができる、それがどうしたら可能かと考えました」
それはマイスタープログラムを受講しているときに取り組んだ研究テーマでした。2017 年に地域おこし協力隊員として中島町に移住した石坂さん。先達である「里人」、地域の年長者の方々に、里山里海の恵みを得る知恵や技術を教えてもらう中で、石坂さん自身がこの地ならではの多様な手仕事の楽しさや、作り出されるものの美味しさ、季節ごとの特徴をおもしろいと感じ、この魅力をもっと多くの人に知ってほしいと考えるようになりました。マイスター受講中の約 1 年間を振り返ってみると、自分が能登でやりたいことをじっくり深く考えることができる時間だったといいます。
えんねでは、味噌づくりや梅干し、漬物などの保存食づくり、山菜採り、収穫したものをつかった料理づくりなど、昔から続いてきた暮らしを日常の一部として感じてもらえるように、その人の興味関心に合うようオーダーメイドで滞在の仕方を提案しています。
「住んでいると、やはり年々、おじいちゃんおばあちゃん世代の知恵や技術が失われてきていることを実感します。一度失われてしまうとわからなくなってしまい、取り返しがつきませせん。最初は過疎化が急速に進む能登に外から興味関心を持つ人を増やしていこうと、魅力発信の気持ちでしたが、地元の若い世代、子どもたちやその親世代のみなさんにも体験してもらえるような場もつくっていきたいですね」
石坂さんからお話しを聞いていると、中島町での何気ない日々の暮らしをとても愛おしいと感じていることが伝わってきます。
「近頃、集落の方からいただいたヨモギの草餅が、はっとするおいしさだったのです。その秘密を教えてもらおうと作った方を探して訪ねると、草餅をつくるときに木製の臼と杵をつかっていることがわかったんです」
日々を宝探しのように過ごしている石坂さんだからこそ、教えてもらえる能登の魅力があると思いました。